いくら話しても分かり合えないのは、“前提”が違うからかもしれない

人間関係の悩み

―すれ違いの原因は、あなたのせいでも、相手のせいでもない―

■ はじめに

「なんでこの人とはこんなに話が通じないんだろう?」

そう感じたことがある方へ。
それは、意見の違いというよりも、“前提”が違うのかもしれません。

意見の違いなら歩み寄れることもあります。
でも、前提が違うと話はすれ違い続け、理解し合うことが難しくなります。

この記事では、「話がかみ合わない理由」が前提のズレにあること、そしてそれにどう向き合えば少し楽に生きられるかを考えていきます。


■ 親との同居を巡る夫婦の対立:家族観という前提

まずは、日常的な例から。

「そろそろうちの親、引き取った方がいいかと思ってて」
「え?一緒に住むってこと? それはちょっと…」
「でも、年も取ってきてるし、誰かが支えないと」
「施設って選択肢もあるでしょ」
「親を施設に入れるなんて、ちょっと考えられない」

この会話は、「住む・住まない」の意見の対立のようでいて、
実はその奥にあるのは「家族はどうあるべきか」という価値観の違いです。

  • 夫:家族とは一緒に住み、助け合うもの
  • 妻:お互いの生活を守るために、適切な距離をとるもの

どちらも間違っていないのに、“前提”が違うだけで、話はかみ合いません。
そして何度も話しても理解し合えず、疲れだけが残っていくのです。


■ サッカースタジアムと税金の話:公共性という前提

ある地域で、税金を使ってサッカースタジアムを建設する案が出たとします。

賛成派「地域文化を育てる拠点になるし、子どもたちの夢にもつながる」
反対派「関心のない人もたくさんいる。なぜそんな娯楽に税金を?」

表面上は「お金の使い道」の議論ですが、実際にはこうした前提の違いがあります:

  • 賛成派:スタジアム=公共性のある文化施設
  • 反対派:スタジアム=一部の人の娯楽施設

つまり、「税金を使うことの正当性」ではなく、“スタジアムの意味づけ”自体が違っているのです。

こうした議論は、論点を変えても変えても、根っこのズレがある限り交わりません。


■ 外国人の生活保護:国家観・人権観という前提

より複雑でセンシティブなテーマもあります。
たとえば、「外国人に生活保護を出すべきか?」という議題。

A(肯定派)「日本に住んでいる以上、困っている人は支えるべき」
B(否定派)「でも、税金は日本人のためのものでしょう?」

この場合も、前提の違いが明確です:

  • A:人権は国籍に関係なく守られるべき
  • B:国家はまず自国民を守るべき

ここでは「生活保護を出すかどうか」以上に、「人権とは何か」「国とは誰のものか」という前提そのものが食い違っているのです。

議論すればするほどお互いの“正しさ”がぶつかり、感情的な対立に発展しがちです。


■ なぜ前提のズレに気づかないのか?

私たちは、自分の価値観を「わざわざ説明しなくても伝わる」と思ってしまいがちです。

  • 家族ってこういうものだよね?
  • 普通に考えたらそれはおかしいよね?

こうした「当然でしょ?」の中に、前提が隠れています。

でも、それが他の人にとっては“当然”ではないかもしれない。

そして話は「利点」や「金銭」など、表面的な論点から始まり、根本のズレに気づかないまま、すれ違い続けてしまうのです。


■ 話がかみ合わないときの、静かな観察術

議論が平行線になるとき、こんな問いを自分に投げかけてみてください。

  • 「この人は、何を“当然”だと考えているんだろう?」
  • 「私がその“当然”に違和感を覚えるのはなぜだろう?」
  • 「これは“意見”の違い?それとも“前提”の違い?」

この問いを立てられるようになると、話がかみ合わない理由が少しずつ見えてきます。


■ 議論をやめることは、敗北ではない

前提は「変えようと思って変えられるもの」ではありません。

それはその人の人生や経験から自然と形作られてきたものであり、他人から指摘されてすぐに変わるようなものではないのです。

だからこそ、無理に説得するのではなく、“あ、この人はこの前提で世界を見ているんだな”と理解するだけでも十分

議論を降りることは、決して逃げではなく、お互いの心を守る知性ある行動です。


■ それでも歩み寄りたいときのヒント

家族やパートナーなどどうしても関係持たなければいけない相手との話し合いでは、「理解」を目指してみましょう。

  • 相手の前提を探る
  • 否定せずに「なるほど」と受け取る
  • そのうえで、受け入れ可能な妥協案を探る

たとえば、

  • 「一緒に住むのは難しいけど、週末だけ会いに行く形ならどう?」
  • 「税金だけでなく、企業協賛とセットなら納得できるかも」

こんなふうに、相手の土台に一歩足をかけるような提案ができれば、対立は少し和らぎます。


■ おわりに

「話し合えば必ず分かり合える」
この言葉は半分正解、半分間違いです
議論の前提認識が違えば話し合いは必ず平行線となってしまいます。

でも、「あ、この人と私は前提が違うんだ」と気づけるだけで、心の摩擦は減っていきます。

そして、もしその相手がパートナーや家族など、日々関わる人であるならば、
議論で勝とうとするのではなく、“違いを理解し合う”ことを目的にする
それだけでも、関係は少しずつ変わっていくかもしれません。

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